高橋 昌一の ビデオマン・ストーリー

ビズネットの二代目会長である高橋昌一さんは、小田原市在住。地元、西湘地区を中心にビデオ制作の仕事をしている。

ビデオを仕事として始める以前は、ビデオ業界のことは何も知らない、本当に素人同然だった。ビデオを撮ると言えば、せいぜい趣味で所属している登山サークルの記録係として、年に2・3回、ビデオを撮っていた程度だった。
14年前、ビデオの仕事をやろうと決めたのだが、今となっては、なぜ そうしたのか、そう思ったのか、良くわからない。
『魔が差したんだと思う。』
当時は、失意で意識が朦朧とした日々。ほとんど無収入の失業状態だったのだ。
偶然見た、ビデオサロン誌のビズネットの記事がきっかけとなり、ビズネットに入会することとなる。「ビデオで仕事を」という言葉に すがる思いだった。
ソニーの民生用ビデオカメラ VX2000と、ノンリニア編集機 ローランド DV7を買った。機材と呼べるものは、これだけだった。
無知ゆえの、無謀な船出だと当時を振り返る。稼げない日々の始まりだ。
『これで始めたんだよね。大変だったのは当たり前、無我夢中も当たり前。一から十、すべてが。』
それでも5年、10年続けていくうちに、映像・音声関係の機材は自然に増えていった。
現在は、Z5J、NX5J、NX70J、NX30J、AX100を、現場によって使い分ける。メモリカードは100枚にもなっていた。
編集はEDIUS Pro8、ビズネットの会員も多くが使っているメジャーな編集ソフトで、情報交換もできる。DVD・ブルーレイを量産するデュプリケータは数台の所有になった。

技術の向上は、やはりお客さんだった。付き合いの長短、売上げの大小には できるだけ左右されないよう、同じお客様として付き合うように心掛けている、と話す。
開業当初は、激しい勢いで営業活動を行なった。
ビズネットに同期で入会した、長谷川さんという方がいる。ポジティブでアクティブな彼は、たまたま住まいも近いこともあり、二人三脚で湘南地区の全ての中学校を営業で回った。DMを投函後、飛び込み訪問もした。
やはり、二人での営業活動は勢いも効率も良く、新規開拓もいくつかあった。

やがてはエリアを分けることになるが、高橋さんは未開拓だった西湘地区の営業を行い、ひと月で 120ほどの幼稚園・保育園を一気に訪問し、その時、巡り合えた顧客が現在の基盤となる。
『ビデオの営業は、その需要先と、いかに出会うかに尽きると思う。「巡り合えた」と言ったのは、そういう意味だね。』
とにかく、軒数を多く訪問していくしかない。辛いこともあるが、効果は現実的だ。
徐々にお客さんは口コミで増えていったと感じていた。これは地域で活動する「街のビデオ屋」の利点かもしれない。
きついと思う期間は長い間 続いた。好転したのは、ここ2・3年のこと。自分に対する見方を変えた。

ビズネット新会員からの質問の受け答え、ベテラン会員との会話などを交わしているうちに、すっかり業者らしいことを言っている自分に気が付く。
開業してから ずっと、苦労癖、半人前癖が染み付き、それがいつまでも まとわりついていたと思っていたからか、少しずつ前進していっている自分に気付こうともしなかったのかもしれない。
変な殻に閉じこもっているんじゃないか、それではいけないと、自分の立ち位置を前に持っていった。

周りの景色が、変わって見え出した。
『ビズネットは、極端な言い方をすれば、ただ黙っていると何もない所、だよね。』
ビズネットは、自分から尋ねていけば、何十年もの含蓄の言葉を聞ける。経験年数に左右されない、真新しい言葉にも遭遇することができる。そういうところは とてもありがたかった。
今まで仕事をする中で、気をつけていることがある。
『わずかな言い訳もしない。』
自分にとっては、ほんの少しの説明・釈明のつもりでも、無意識に自分を利してしまいがちになるからだ。それでは、お客さんに対しても、自分の仕事に対しても真摯に向き合っていることにはならない。お客さんを困らせることかも知れない。
だから、高橋さんは失敗説明も、変更説明も、謝罪も、できるだけ端的に済ますようにしているという。
お客さんは、幼稚園・小学校・中学校が大半。主に運動会・発表会・卒業式などの行事を撮影している。その辺りは当初から大きくは変わらない。もちろん、他のイベントも撮影している。
撮影は時期が重なることが多い。自分が忙しいときは同業者も忙しい。だから、どんな現場でも自分一人で対応することが基本だ。

一人で3台のカメラを扱うことは当たり前。例えば、卒園式などは、カメラを式場の前後や左右にセットし、自分がカメラの場所に移動してオペレートする。

ここ数年は、ビズネットの仲間に手伝ってもらうことも増えてきた。撮影が重なる日は、どう頑張っても、一人では無理だからだ。こういう時は、ビズネットの仲間は心強い。
『お客さんとは、可能な限り、その距離を縮めていくことを心掛けてるよ。』
お客さんとの距離は近ければ近いほど良い。「顧客と業者」という図式の距離感では、打ち合わせでも、現場でも、つい見逃してしまうことが多くなる一方、入ってくる情報が少なくなる。だから、少しでもその距離を縮める。
お互い、気の知れた間柄になるのがベターだ。お客さんからの支持も継続されやすいという。

高橋さんは、いつでも、どの現場でも、子供と仲が良い。
子供と自分の目線は、いつも同じ高さ。園児と接しているときは、こちらが子供の相手をしているようにみえて、実は子供の方が自分の相手をしてくれているんだ、と話す。

この弁にも、高橋さんの人柄が見える。長くお客さんが離れない理由かもしれない。